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「100歳の美しい脳」、認知症に関する研究を読みました。

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少しでも早く地震が収まりますように。
被災者の方々に心休まる日が一日も早く訪れますように。

デヴィッド・スノウドン著『100歳の美しい脳 アルツハイマー病解明に手をさしのべた修道女たち』(英題:Aging With Grace)を読みました。
スノウドン氏が修道女を対象に死後の献脳と生前の様々な検査を依頼した研究、ナン・スタディをまとめた本です。

この本を読んだ動機はひねくれています。
某ライターが出版した家事をシンプルにしようと言う本で引用されていたのがきっかけでした。
ざっくりにすると、修道女の様に慣れ親しんだ環境の変化の少ないシンプルな暮らしを続ければ、自分に出来る事を続けられると言う風に受け取れる書き方でした。
「ブレイン・ルール」等の認知症予防に関する本やネット記事を既に読んでいた私は違和感を抱きました。
それらはむしろ生活をバラエティ豊かにする事を勧めていたからです。

これはスノウドン氏の原著にあたらねばならない、と思い探しました。
電子書籍では見つからず、やっとこの本を中古で見つけて読みました。

修道女において他の環境より認知機能が低下しなかった人が多かったと言うような記述はありませんでした。

アルツハイマーの病変と認知機能を調べた結果においては、アルツハイマーの病変が多く認知機能が低下していたシスターが居れば、
病変は多いのに認知機能は低下しなかったシスターが居て、
逆に病変は少ないのに認知機能はとても低下したシスターが居ると言った具合でした。
アルツハイマーの病変が多いのに認知機能が少なかったシスターに関しては、ラクナ梗塞と言う脳梗塞が無いケースが57%程度。
一方、アルツハイマーラクナ梗塞を併発していたシスターで認知機能が低下したのは93%程度でした。
アルツハイマーの病変があるところに小さな梗塞が発生すると、それがスイッチとなって認知機能が低下する可能性や、
梗塞を経験していない脳は、アルツハイマーによる損傷をある程度埋め合わせて症状を抑えるのではないかと示唆しています。
これを読むと、脳梗塞を防ぐ食生活を心掛けたくなりました。

研究ではシスターたちが修道会に入る時に書いた自伝の意味密度と、晩年の認知機能の程度の関連性を探っています。
意味密度とは、単語10個あたりに表現される命題の数です。言語処理能力を反映していて、その人の教育程度、全般的な知識、語彙、読解力と結びついています。
この研究では、20代に意味密度の高いシスターほど晩年は認知機能があまり低下していない事が分かりました。
この結果からスノウドン氏は、若い時に意味密度の低い文章を書いていた人は、既に何らかの脳障害を発症していたのではないかと提示しています。
アルツハイマー病は進行が極めて遅いからですし、
プラーク夫妻の研究では、早い人では20代から脳の神経原繊維変化が始まっていた事を引用しています。

栄養に関する研究では中々これといった成果が得られなかったけれども、
リコピンが身体機能の維持と強い相関を示していたそうです。
血中リコピン濃度が低いシスターほど身の回りの事をするのに介助を必要とする回数が多かったそうです。
ただこれが原因なのか結果なのかは注意が必要で、病気や障害が起きる前にリコピン濃度が低かったのか、病気や障害が起きた結果リコピン濃度が下がったのかは分からないとしています。

また、サンプル数は少ないですが、血中葉酸濃度が高い人ほど脳の萎縮が起こっていなかったとの事です。
ただスノウドン氏は過剰摂取には釘を刺していて、自身は葉酸を含むマルチビタミンを飲んでいるが、新鮮な旬の果物と野菜もなるべく多く摂るようにしているそうです。
植物に含まれる栄養素は他の様々な要素と相乗効果を発揮すると考えているからだそうです。

本の中ではこうした疫学的な調査結果を羅列するだけでなく、修道院の生活についての描写もあります。
シスターたちは日々の研鑽の他にゲームに興じたり、テレビで野球観戦に熱中したり編み物したり他のシスターのお世話をしたりと、活き活きしています。
修道院の外での奉仕活動も身体が続く限り参加しています。
その一方で身体的に障害が起きたり認知機能が低下したりしたシスターたちは、専用の一棟でお世話になっており、その描写は胸が詰まるようでした。

また、一人一人のシスターの生涯にも敬意を持ってフォーカスしていました。
シスター達の奉仕の精神に触れて、今は自分と家族の事で必死な日々ですが、年金生活に入ったらボランティア等で他者の役に立つ活動をしたいなと思いました。

ただの疫学調査で終わらず、読み物としても素晴らしく、爽やかな読後感が得られる一冊です。
残念なのは中古でしか手に入らない事ですね。